【読書】仙人 人間ってこういうとこあるよね
こんにちは、はるのゆきです。
先日、初めて神保町へ行きました。本好きなら誰もが憧れる本の街ですね。軒を連ねる古書店に胸が躍り、読書欲が跳ね上がりました。
神保町散策については、改めて記事にできたらと思っています。
そんな神保町へ向かう電車内で読んだ本をご紹介します。
芥川龍之介さんの『仙人』。
二つの『仙人』
芥川龍之介さんは『仙人』という作品を二つ執筆しています。
一つは、大阪に住む権助が、仙人になるために医者夫婦の元へ奉公する話。こちらは童話文学に分類されている作品です。
そしてもう一つ、貧乏な鼠使いが主人公の『仙人』。中国が舞台の短編です。こちらを今回ご紹介しようと思います。
あらすじ
北支那の市に、李小二という男がいました。
彼は市から市を渡り歩き、鼠に芝居をさせるのを商売にしている見世物師です。天気や気候に左右される商売で、収入はその日暮らしが精いっぱい。
そんな彼が、みすぼらしい廟でとある老人に出会いました。その老人は、見るからに李小二より貧しく暮らしに困窮している様子。
彼の姿に李小二は優越感を抱きます。可哀想だから話を合わせてあげよう。農作物の不作についてなど、貧乏そうな彼に合わせて話題を振る李小二。
しかし実は、その老人はお金に不自由しないどころか、生き方の次元が違う仙人だったのですーー。
優越感を持つことへの罪悪感
本作を読んで私が一番心に残ったのは、老人に対して抱く李小二の心理描写の巧みさです。
以下本文からの抜粋です。
李は、この老道士に比べれば、あらゆる点で、自分の方が、生活上の優者だと考えた。そう云う自覚が、愉快でない事は、勿論ない。が、李は、それと同時に、優者であると云う事が、何となくこの老人に対して済まないような心もちがした。彼は、談柄を、生活難に落して、自分の暮しの苦しさを、わざわざ誇張して、話したのは、完く、この済まないような心もちに、煩わされた結果である。
貧乏で生活に苦しんでいる自分。
しかし自分よりも貧乏そうな老人に出会った。
彼に比べたら自分の暮らしの方がまだマシじゃないか。そう思うと気分がいい。でもそんな優越感を抱くのは申し訳ないから、老人の生活状況に合わせた話をしよう!
という感じですね。
こういう感情って、ほんとに人間あるあるだなぁと思います。
自分より大変そうな相手へ優越感を抱くこと。
でも優越感で終わるとただの性格悪いヤツだから、そこに罪悪感を抱くことも忘れない。
その罪悪感が、何とも心地いいんですよね…
多かれ少なかれ、誰しもが同じような感情を抱いたことがあるのではないかと思います。
例えるなら
仕事で失敗した時。自分より大きな失敗をした人を慰めることで、自分も安心する。
彼氏に振られて落ち込んでいる時。Twitterで浮気とか不倫とか、もっとヘビーな経験をしている人の愚痴を見て、可哀想だな〜と同情しながらもスッキリする。
などなど。
格下(と思える)人と付き合うことで、自分の足場を固めるのって、何だか安心しますよね。
そんな人間の心の機微を、短い文章の中で見事に描き切る芥川龍之介の凄さに感動しました。
読んだら分かる分かる!って共感できるけど、それを自分で一から文章化しなさいと言われたら絶対にできない心理描写。
太宰治のようなネチネチ感は少ないのに、サラッと心を抉ってくる感じ。
大人になって読む芥川龍之介は新たな発見が沢山あって最高でした。
仙人からの言葉
しかし、そんな李小二の傲りなど完全に見透かしている仙人。彼は最後、李小二に大金を渡し、こんな言葉を贈ります。
人生苦あり、以て楽むべし。
人間死するあり、以て生くるを知る。
死苦共に脱し得て甚だ、無聊なり。
仙人は若かず、凡人の死苦あるに。
お金があり生活に困ることがない仙人は、“苦”がない一方で、“楽”も感じられない日々を送っています。
わざと苦しい生活に身を投じることで、人間らしい“苦”“楽”を経験したかったのでしょう。
貧乏だけど人間らしい感情を抱ける李小二
裕福だけど人間らしい感情を抱けない仙人
対照的な2人の姿に、人間にとっての幸せは何か?と考えさせられます。
こんな人にオススメ
⭐︎文豪作品に触れてみたい
→短編で読みやすく、初心者にもオススメです
⭐︎心理描写が巧みな話が好き
→自分の心を見透かされている気になります
⭐︎空き時間に手軽に読書したい
通勤電車や寝る前の15分で読める作品なので、ぜひ読んでみてください。
はるのゆき