【読書】噛みあわない会話と、ある過去について。ホラーではなく教訓でした
こんにちは、はるのゆきです。
辻村深月さんの『噛みあわない会話と、ある過去について』を読みました。
あらすじ
あなたの「過去」は、大丈夫?
美しい「思い出」として記憶された日々――。
その裏側に触れたとき、見ていた世界は豹変する。大学の部活で仲のよかった男友達のナベちゃんが結婚するという。だが、紹介された婚約者はどこかズレていて――。 「ナベちゃんのヨメ」
国民的アイドルになったかつての教え子がやってくる。小学校教諭の美穂は、ある特別な思い出を胸に再会を喜ぶが……。「パッとしない子」
人の心裏を鋭くあばく傑作短編集!
Amazonの内容紹介より抜粋
本作品には、四つの短編が収録されています。
⭐︎ナベちゃんのヨメ
⭐︎パッとしない子
⭐︎ママ・はは
⭐︎早穂とゆかり
どの短編も、主人公と別の登場人物が過去を振り返る形で物語が進みます。
自分と他者の2人の目線で見た時に、同じ過去でも違う側面が見えてくる。自分の過去への認識は本当に正しいのか?
人と人の“噛みあわなさ”を実感できる作品です。
感想
- 「ヒヤッ」ではなく「ぐさっ」とくる
私がこの作品を手に取ったのは、Twitterで「怖い」「ホラーだ」と話題になっていたからです。
かがみの孤城を書いた作者が描く、ホラーな世界を体感したいと思い購入しました。
そして読んだ結果、私が感じた感想は『面白いけどホラーではない』でした。
ホラーと聞くと、背筋がヒヤッと凍るような、ジワジワ追い詰められる恐怖をイメージしませんか?
この作品、登場人物の一言に心を「ぐさっ」と抉られます。でも「ヒヤッ」ではないんですよね。
「ヒヤッ」とする恐怖ではなく、「ぐさっ」とくる悲しみ。
そう、登場人物の悲しみや、居た堪れなさが心に深く突き刺さる読書体験でした。
- 記憶は自分の認識次第
例えば、好きなアイドルのコンサートに行った時のことを想像してください。
《私視点》
最前列で、推しの毛穴まで見える最高の席。
コンサートが始まりました。
なんと推しが歌の合間に、チラチラと私の方を見てくれている!!
こんなに目が合うのって私だけだよね??この前の握手会に行ったこと、覚えてくれているのかな??
うわぁ〜今度は微笑んでくれた!!!これはワンチャンあるのでは!???きゃーー出待ちしよう〜〜!!!
《アイドル視点》
今日もお客さん多いなぁ〜。新曲発売も近いし、失敗しないように頑張ろう。
なるべく会場全体に視線を向けて、みんなに笑顔を向けられるように意識しよう。
人が多すぎて、一人一人の顔はちゃんと見えないけれど。というかパフォーマンスに集中してたらお客の顔なんて覚えられないけれど。
とりあえず笑顔笑顔〜〜!!!
日常生活の中で、こんなことって多々ありますよね。つまり『認識の相違』。
自分が見ている世界(つまりは現実)は、あくまでも“自分にとって都合のいい世界”なのです。
自分にとっての現実と、相手にとっての現実は同じものでは無い。
それは悪いことでも怖いことでもなくて、人が幸せに生きるための手段なのかなと思います。
上に書いたライブのエピソードでいえば、「推しと目が合った」という自分なりの現実があれば、それから数日は幸せに生きていけるじゃないですか。
そんな風に、多かれ少なかれ、自分なりの現実を幸せなものにしていくことって結構大切。
(もちろんこれが行き過ぎるとストーカーになってしまうので、現実離れしすぎてはいけませんが…)
だから自分にとっての幸せな過去が、誰かにとってはそうでも無いかもしれない、って普通にありえることな気がします。
辻村深月さんの『噛みあわない会話と、ある過去について』は、その“現実の相違”を究極に描き、読者の心を揺さぶってきます。
怖いなぁ、で終わるのではなく、人間ってこういう生き物だよね。あるある…と共感できる部分があるはずです。
ある出来事を、相手の気持ちになって改めて考えてみようと思える、教訓のような作品でした。
こんな人におすすめ
⭐︎人の心理を追求するのが好き
→読むうちに明らかになる心情が面白いです!
⭐︎難しい本は苦手…
→分かりやすい言葉・日常に沿った内容です!
⭐︎短時間で読書したい
→短編集なのでサラッと読めます!
はるのゆき