はるの本棚

口下手な私の人生と推し本について。

【犯人】中学女子の上下関係は恐ろしい【太宰治】

太宰治さんの『犯人』を読みました。

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中学時代、吹奏楽部でトロンボーンを吹いていました。

本当はフルートが吹きたかったんです。だってフルートを吹けば、可憐で育ちのいいお嬢さまオーラを存分に醸し出せるでしょう?

思春期女子にとって、可憐であることは一種のステータス。選ぶ楽器一つで、そのステータスが手に入るなら、万々歳じゃあありませんか。

 

でも結果的に手に入ったステータスは、大きな体と長い手足を存分に活かせる影の立役者。

 

いえいえ決してトロンボーンをディスっているわけではありません。あの大きいのにスマートで魅惑的なフォルム。重厚感のある音色。微細な腕の動きが生み出すハーモニー。魅力に満ち溢れてた管楽器の王様です(私指標)。

 

フルート争奪戦という名の、早く入部したもん勝ちで楽器決めていいよルールに完敗した私。

気が付けばトロンボーン片手に、怖い先輩監視のもと、毎日腹筋100回やって腹式呼吸を鍛えろという文系部詐欺に謹んで応じておりました。

 

文系部詐欺は腹筋だけにとどまらず、先輩との上下関係にも及びます。

 

廊下だろうがトイレだろうが、帰宅途中のデートだろうが、先輩の髪の毛一本見えればすぐに、深々とお辞儀をして挨拶を。

それが入部後すぐに与えられた一年生への第一課題。

いつもハラハラ気が抜けず、先輩アンテナをビンビンに張って過ごしておりました。

 

 

そんなある日の、廊下での出来事。

その日は、推しについて考えていたのです。

当時の推しは、ハリーポッター役のダニエルラドクリフくん。新作映画のPVが公開されたので、頭の中がラドクリフくん一色だったのです。

推しが愛おしいあまりに、正面から近付いてくる重厚なオーラを放つ影に気が付くことができませんでした。そう、それは“先輩”。

挨拶という名の誠意を見せなせれば、社会的制裁が待っている。つまり中学生活の終わりが。

 

先輩と目が合いました。固まりました。

だって脳内ダニエルラドクリフですから。ハリーポッターの魔法の世界に飛び立っている最中ですから。急に現れた現実のデスイーター(概念)には対応できません。

 

挨拶を忘れ、虚無顔で先輩を見つめること脳内時間にして3分、現実にして数秒(五条先生かよ)。

あ〜終わった、やらかした。と脳が認識しました。

 

きっと先輩は私を、『死んだ目で意味深な圧をかけてくる生意気な後輩野郎』だと評価したことでしょう。

終わった。『大人しいけど従順で先輩に可愛がられも嫌われもしない影の薄い後輩』でいようとする私の努力が終わった。たった一度の挨拶ミスで、部活内での私のステータスは地に落ちるのだ。

 

その日の夕方部活へ行くまで、脳内で行われた数々の会議。

先輩内に私の悪評が広まっているに違いない

いつから社会的制裁が始まるのか

いやまだ謝れば許されるのでは

先輩にも心はあるはず

でももし許されなかったら

トロンボーン人生もここで終わりか

腹筋まだ鍛えたかったな

先輩になって挨拶されてみたかったな

恐怖に駆られた時、人の思考はこんなにも活発になるのかよくもまぁこんなにマイナスな考えばかり浮かんでくるな。

 

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そんな当時の思い出が蘇ってくる作品でした。

 

太宰治、人の心の動きを描くのが巧すぎる。思い出したくもない過去の気持ちをほじくり返してきおる。これが天才の所業か。

 

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ちなみに挨拶を忘れてしまった先輩は、そのこと自体覚えておらず、普段となーんにも変わらず接してくれましたとさ。

 

はるのゆき